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自己啓発や聖書に関する事等掲載中。引用聖句:新改訳聖書©新日本聖書刊行会 英文聖句:New International Ver.

1990年代初頭の「構造改革」論の背景と、その行方

 引き続き、北村教授の文献

北村洋基『岐路に立つ日本経済』大月書店、2006年。

の研究についてです。以下、この文献における147頁以下から引用させていただきます。

 バブル真っ只中の1980年代後半において、日本経済は、以下のような深刻な問題をかかえていたとのことです(※1)。

第1:過労死に象徴される労働、働き過ぎ・働かせすぎの問題
第2:地価高騰による住宅問題の深刻化
第3:日本の異常な国際競争力にたいする欧米諸国からの反発


 1990年代初頭では、「こうした事態の反省に立って、日本の構造を変えなければならないという議論が起こり、ほとんど国民的合意」(※2)になっていたようです。


 その結果、通産省が91年5月には『ゆとり社会の基本構想』を発表し、当時の日本に欠けているといわれていた次の3つのゆとりへの対策を提起しています(※3)。

1.時間的なゆとり(残業の削減、休日の増加などにより年間1800時間労働の早期実現)
2.空間のゆとり(住宅が狭く生活関連公共空間が不足、良質な公共住宅の供給拡大、東京一極集中の早急な是正など)
3.経済のゆとり(内需主導型の持続的な成長の維持、社会保障制度の充実など)


 さらに、92年6月には、「企業中心社会」「会社人間」というキーワードを使い日本の経済構造の問題点について詳しく検討し改変を迫った、国民生活審議会総合政策部会による『個人の生活を重視する社会へ』という、きわめて注目すべき報告書が提出されています(※4)。


 こうした提言や報告書は、92年6月に閣議決定された新長期計画『生活大国5ヶ年計画-地球社会と共存する生活大国』にもある程度反映されており、当該計画は以下の3部からなっています(※5)。

\験菎膵颪悗諒儚
・年間1800時間への労働時間短縮のための労働基準法改正等
・女性の能力発揮のための環境整備として育児休業制度の定着
・大都市圏でも、勤労者世帯の年収5倍程度で良質な住宅を取得できるように)
地球社会との共存
H展基盤の整備( ↓△硫歛蠎存修砲廊が必要)



 ところが、結果的には「『企業中心社会からの脱却』にせよ、『ゆとり社会』の建設にせよ、『生活大国』の実現にせよ、そのほとんどは達成されることなく、事実上目標そのものが放棄される事態となってしまった」(※6)のですが、それはどうしてなのでしょうか?


 こうした日本の経済構造の改革のためには、

・国民多数の切実な要求として、市民運動や労働運動などの国民的な下からの力
・国民的支持を受けて経済構造の変革を推進しうる政治的な力

という上からと下からの両面が結合してはじめて実効性のある経済・社会構造の改革が実現できるのであるが、国民側で運動として展開され事態の改善を迫るまでには至らなかったこと、及び当時の内閣がバブル崩壊後の不況克服に関心が移ってしまったこともあり、両面ともに不十分であったため(※7)のようです。


※1)北村洋基『岐路に立つ日本経済』、147頁。
※2)前掲・147頁。
※3)前掲・148頁。
※4)前掲・148-149頁。
※5)前掲・149-150頁。
※6)前掲・151頁。
※7)前掲・151頁。


 上記のような積み重ねにより現在の日本経済が存在しており、決して良くないことばかりではないと思いますが、政策が実現されたというより、バブル崩壊による不況の長期化や地価の急激な下落により結果的に実現されたことが少なくないかもしれませんね。


 ところで、「構造改革」というキーワードは、たびたび見聞きしますが、この改革すべき対象となっている「構造」とはいったいどのような概念であるか、基本を押さえておく必要がありますね。北村先生の当該文献の5頁以下から引用させていただきます。

 社会の経済構造とは、「原理的にいえば生産能力の一定の発展段階に照応する生産諸関係の総体であり、社会の実在的土台である。そして土台とその上にそびえ立つ法的・政治的な上部構造とは相互規定・浸透関係にある。とくに今日では、上部構造の土台にたいする諸介入が恒常化し、土台と上部構造とを明確に区別することは現実には困難である。」

 それに対して産業構造とは、「一定の経済構造を前提としまた経済構造を構成する重要な要素であるが、直接的には生産力にかかわる概念である。生産力の発展を段階的に区分する場合、一方では生産力を構成する労働手段、労働対象、そして労働力等の諸要素の発展水準やその組織のあり方等によって区別することができるとともに、他方では社会的分業の発展水準によっても区別することができる。」

 もっと詳しくお知りになりたい方は、ぜひこの文献をご覧ください。個人的には、とてもわかり易く、しかしながら内容はとても充実しているので、とてもおすすめの文献です。経済学部関連の方はもちろんですが、政治家や企業のCFOクラスを目指す方、「どこかおかしいよ日本経済は」と思っている方には、特におすすめです。


 昨日ご紹介した2001年のNHK連続ドラマ『バブル』の最終回ラストシーンでは、バブルの波をおもいっきりサーフィンした某登場人物によるとても印象的な一言で終わっていました。バブル崩壊により超多額の負債が日本国中に産まれてしまったのですが、その原因を作った当事者で負債を負担するのではなく、あまりめだたない額(消費税)としてそのツケ(負債)は一般市民が負担させられるという意味合いのシーンでした。

 ですから、バブル崩壊は直接的に自分には関係ないと思っている人程、どこかの誰かが産んだツケを知らず知らずに負担させられているので、十分に気をつけてくださいということを警告したものだと理解しています。



stop thinking like children. In regard to evil be infants, but in your thinking be adults.
(1 Corinthians 14:20)
物の考え方において子どもであってはなりません。悪事においては幼子でありなさい。しかし考え方においてはおとなになりなさい。
(1コリント14:20)