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自己啓発や聖書に関する事等掲載中。引用聖句:新改訳聖書©新日本聖書刊行会 英文聖句:New International Ver.

1999年の米国連邦最高裁によるオルムステッド判決とは・・・その2

 オルムステッド判決とは、どのような内容だったのでしょうか?

OLMSTEAD V. L. C. (98-536) 527 U.S. 581 (1999)
http://straylight.law.cornell.edu/supct/html/98-536.ZS.html

を研究する上で、まずは、Americans with Disabilities Act of 1990 (ADA)が制定される上での世界的な情勢と、ノーマライゼーション(Normalization)」「ソーシャルインクルージョン(Social Inclusion)」について考察していきたいと思います。以下は、以前慶應大学在籍中に制作したレポートから一部抜粋して復習してみます。

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 国際連合は設立当初から障害者問題に大きな関心を持っており、1975年に「障害者の権利宣言」を採択し、1981年を障害者の「完全参加と平等」をテーマにして「国際障害者年」と定めた。1982年には、国際障害者年の趣旨を具体的にしていくために「障害者に関する世界行動計画」を採択するとともに、1983年から1992年までの十年を「国連・障害者の十年」と定めて、この間における各国での積極的な障害者対策の推進を提唱した。

 各国の立法動向をみると、例えば米国の「障害をもつアメリカ人法」(ADA:1990年)、イギリスの「障害者差別禁止法」(1995年)、オーストラリアの「障害者差別禁止法」(1992年)、ドイツの「障害者差別の除去にかかわる基本法」(1994年)、EUの障害者差別の禁止を含む「雇用および職業における均等待遇理事会指令」(2000年)などが制定され、差別禁止立法についてはめざましい動きがあった。

 またアジア諸国においては、韓国において1989年に障害者福祉法の改正がなされ、1990年に障害者雇用促進法の制定が行われた。中国においては、1991年に障害者保障法が制定されているなど、障害者に関する法制度の整備が行われている。

 以上のように、諸外国においてはそれぞれの経済状況や社会情勢によりその内容は大きく異なるものの「国連・障害者の十年」の間あるいはそれを契機として障害者福祉施策の充実が図られてきている。 米国でADAが成立したときには画期的な障害者立法であったといわれたが、今日では数多くの国が障害者差別禁止に関する法律を持っている。

 欧米の人間像・社会観はキリスト教思想を基本とし、「神の前では障害者も自然的な権利として自由平等の地位を保障されている」といわれる。例えば、アメリカ独立宣言(1776年)の書き出しにおいて、「自然の法と自然の神の法により賦与される自由平等の地位を・・・・・・すべての人は平等に造られ、造物主によって、一定の奪い難い天賦の権利を付与され・・・・・・」(平良『英米法 第2版』慶應義塾大学出版、2005年、29頁)とある。

 また、キリスト教思想の基本となる聖書には、「Since you are precious and honored in my sight, and because I love you .( わたしの目には、あなたは高価で尊い。 わたしはあなたを愛している。)」(旧約聖書 Isaiah 43:4;Bible New International Version)」と記載されている。

 
 世界的な差別禁止法制定の動きをみると、わが国が前提とする人間像や社会観に根本的な反省を迫り社会福祉法の前提にする障害観や障害者像にも重要な修正を迫るものであると思われる。つまり、わが国では障害者を社会から一旦排除しつつ、一般社会に参加させるために特別な支援を提供するというような思想がみられるが、例えばADAにおいてはそういった思想を崩していこうというアプローチであると思われるからである。デンマークのバンク・ミケルセンが提唱した、「障害者も健常者と同じ人間として同じ生活条件を得ること本来の姿である」とする考え方、いわゆる「ノーマライゼーション」を実践理念として、ますます障害者差別禁止の動きを進めているように思われる。

 米国での2001年からのノーマライゼーションについての実証事業では、障害がある人への就業支援が、従来の「支援」や「差別禁止」を中心としたものとは抜本的に異なり、「全ての人は社会に貢献できるとの信念に基づき、障害がある人の自己決定力と社会との関係を実質的に強めることで、障害がある人を『支援されるだけの存在』から『社会に貢献する存在』として回復させることを本質としている」(独立行政法人障害者職業総合センター調査研究報告書NO.80『米国のカスタマイズ就業の効果とわが国への導入可能性』2007年、127頁)というように、障害者の就業支援のノーマライゼーションの理念をさらに豊かに、かつ現実的にしようとしている。

 さらに昨今の国連やILOEUにおける取り組みをみると、「差別の撤退を通じて障害者の権利の擁護、障害者の社会的包括(ソーシャルインクルージョン)の促進が障害者施策の第一目標として掲げられており、雇用分野においては、雇用を通じて障害者の社会的統合を具現化するものとして一般雇用が捉えられていることである。」(障害者職業総合センター調査研究報告書NO.81「サマリー」『EU諸国における障害者差別禁止法制の展開と障害者雇用施策の動向』2007年、11頁)とのことである。
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 この研究の先に一体何があるのか全く見えませんが、今日、今夜、この研究をしている私がここに存在しているのは事実であることから、この研究、あるいはこれまで研究してきたドイツ・米国・日本の憲法研究等と近い将来何らかの形で融合することで社会に貢献できる機会が導かれるのかもしれません。あるいはそうでないかもしれませんが、見えないものにこそ目を留め、日々できることをできる範囲で継続しつつ、将来に期待していきたいと思います。


 ”So we fix our eyes not on what is seen, but on what is unseen.
For what is seen is temporary, but what is unseen is eternal.”
(2 Corinthians 4:18)

私たちは、見えるものにではなく、見えないものにこそ目を留めます。
見えるものは一時的であり、見えないものはいつまでも続くからです。
(コリント供。款錬隠言瓠